青樹 イツキ(仮名)さんが、6DJ8&6AS7Gを使ってOTL(出力トランスレス)ヘッドホンアンプを作られました。
最初、こちらのページを参照されたようで、そのとおりに作ったそうです。
http://www.illuwatar.se/project_pages/6as7_headphone/headphone.htm回路図はこちら。
http://www.illuwatar.se/project_pages/6as7_headphone/images/amp_schematics.gifこの回路の動作を解析してみました。
まず初段の6DJ8のバイアスを見てみます。
6DJ8のデータシートを入手して、Vp-Ip特性図(左下部分を拡大しています)に、
47kΩ+4.7kΩ+820Ω=52.52kΩ
の負荷線(ロードライン)を引きます。これは単純に、
・X軸上(電流0mA)に電源電圧150Vを、
・Y軸上(電圧0V)に52.52kΩの抵抗に電源電圧150Vをかけたときに流れる電流150÷52.52≒2.86mAを
とり、両者を直線で結びます(青の直線)。
このとき、6DJ8のプレート-カソード間電圧とプレート電流の関係は必ずこの直線の上に存在します。(それがなぜなのか知りたい方は、ぜひ僕の真空管アンプ設計ワークショップにご参加ください!)
次に、6DJ8のグリッド電圧とプレート電流の関係を同じVp-Ip特性図上にプロットします。
6DJ8のカソードに820Ωがつながっている(これをRkを呼ぶことにします)ので、プレート電流が流れるとカソードの電圧がかさ上げされ、グリッドにそれと逆向きの電圧がかかります。これがグリッドバイアス電圧になります。よって、これを逆算すればプレート電流が求まるわけです。
最初に、Rkにかかる電圧が0Vならば、プレート電流も0mAのはずなので、グリッド電圧0Vでプレート電流が0mAの点(=原点)に点を打ちます。
次にRkが1Vのとき、グリッド電圧は-1V、プレート電流は1V÷0.82kΩ≒1.22mAなので、グリッド電圧-1Vの曲線上でプレート電流が1.22mAの位置に点を打ち、このときのプレート-カソード間電圧Vpkを読み取ります。
これを2V・3V・4V...と繰り返していきます。
Vgk[V] | Ip[mA] | Vpk[V] |
0 | 0 | 0 |
-1 | 1.22 | 28 |
-2 | 2.44 | 68 |
-3 | 3.66 | 102 |
-4 | 4.88 | 141 |
最後にこれらの点を結ぶとピンクの線になります(実際には曲線になるのですが、ここでは近似的に直線で結んでいます)。この2つの線の交点が、6DJ8のバイアスポイントになります。
ここからプレート-カソード間電圧を読み取ると約53Vと読めます。またカソードの電圧(=グリッドの電圧にマイナス1をかけた値)はおおよそ1.7Vと読めます。
両者を足した値(おおざっぱに55V)が、次段の6AS7の入力電圧(あえて「グリッド電圧」と言わない点に注意)になります。

こんどは6AS7Gのバイアスを見てみます。
同様に6AS7Gのデータシートを入手して、Vp-Ip特性図上に3.3kΩの負荷線を引きます。
次に、こんどはこの直線とVp-Ip曲線の交点から、プレート-カソード間電圧Vpk、プレート電流Ipを読み取っていきます。
また、電源電圧からVpkを引いた値がカソード抵抗の電圧VRk、さらにVRkにグリッド-カソード間電圧を「足した」値が入力電圧Vinを計算します(※グリッド電圧がマイナスの値なので、入力電圧Vinはカソード抵抗の電圧VRkより低くなる点に注意)。
Vgk[V] | Vpk[V] | Ip[mA] | VRk[V] | Vin[V] |
0 | 18.0 | 40.0 | 132.0 | 132.0 |
-20 | 53.5 | 29.2 | 96.5 | 76.5 |
-40 | 81.5 | 20.8 | 68.5 | 28.5 |
-60 | 113.5 | 11.1 | 36.5 | -23.5 |
-80 | 134.5 | 4.7 | 15.5 | -64.5 |

そして、別に
・VinをX軸
・VRkをY軸
にとってグラフにプロットし、線で結びます(実際には曲線になるのですが、ここでは近似的に直線で結んでいます)。
ここで、前段の6DJ8からの入力電圧が約55Vとわかっているので、入力電圧55Vのときのカソード抵抗の電圧Vrkを読み取ると、約85Vと読めます。これが6AS7Gのバイアスポイントになります。

6AS7GのVp-Ip特性図にもどって、このバイアスポイントを記入します。
先ほど読み取った85Vはカソード抵抗Rkの電圧なので、これをプレート-カソード間電圧に直すため電源電圧からVRkを引いて、65Vを負荷線上に打ちます。
このときに6AS7Gのプレート電流も求まります。3.3kΩの抵抗に85Vがかかっているので、約25.8mAとなります。
そしてこの点を通る、負荷インピーダンスの線を引きます。ヘッドホンアンプなのでヘッドホンのインピーダンスになりますが、代表として32Ωで引くとピンクの線になります。

ここでピンクの線を前後に見てみると、電流の多いほうと少ないほうの幅に大きな差があります。このバイアスポイントはかなり電流低めの位置に偏っているということですから、プレート電流はもっと多くしたほうがよさそうです。
また、付近のVp-Ip曲線は曲がっていて歪みが多そうです。これもプレート電流を増やしてやれば歪みの少ない領域で動作できそうな気がします。
パワーもあまり多く取れそうにありません。プレート電流が約25.8mAなので
0.0258^2×32÷2≒0.0107[W]
で、ヘッドホンアンプとしては少し心もとないです。
プレート電流を増やすには、単純にカソード抵抗を小さくしてやれば良いでしょう。そのようにアドバイスしたところ、最終的にはカソード抵抗を1.5kΩにしたようです。
http://jj0dir.at.webry.info/201608/article_3.htmlこのときのVp-Ip特性図は次のようになって、プレート電流は53.3mA流れ、歪み領域からも外れるので音質は向上しそうです。
出力も
0.0533^2×32÷2≒0.0455[W]
と大きく取れるようになるでしょう。

さらにカソード抵抗を低く820Ωにすると、Vp-Ip特性図は次のようになります。グラフのプロットエリアを突き抜けてしまっていますが、プラス・マイナス共に大きな電流を取り出せるようになり、かなり大きなパワーが出せそうですね。

(※Vin-VRkのグラフは省略しますが、カソード抵抗の値を変えるとバイアスポイントも変わりますから、必ずグラフを描いてバイアスポイントを確認しましょう)
なお、実際の設計の手順としては、先に終段である6AS7Gのバイアスポイントを決め、それに合うように前段の6DJ8の定数を決めるようにするのが定石と思います。
また、電源部には1次100V、2次110V、容量10VAのトランスを使っているようです。取り出せる電流は、交流のままなら
10÷110=0.09[A]
ですが、これを整流し直流に変換して使う場合、トランスの容量を超えないためにはおおむね半分~2/3程度の電流しか取り出せません(この理由も知りたい方はぜひ私のワークショップにご参加くださいね)。そのため0.05~0.07A程度しか取り出せないことになります。
改良後の回路では1回路あたり0.0533+0.00286=0.0562A流れますから、電源はその倍の0.1124Aは取り出せないといけません。よって、トランスは一回りおおきなものに変更する必要がありそうです。
ひとつ上の容量のものは30VAとのことですから、おおむね0.15~0.2Aは取り出せる計算ですので十分ですね。
さてこのアンプ、私も作ってみたくなりましたが、へそ曲がりな性分ですので、絶対このままのとおりには作らないことでしょう。
どうなることやら、お楽しみに。
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